口先介入の警戒レベルと発言例をまとめました。
また2022年9月22日の24年ぶりの円買い・ドル売りの為替介入に至るまでの口先介入の流れをドル円レートとともにまとめました。
この記事でわかること
●口先介入の警戒レベルと発言例
●2022年9月22日の為替介入に至るまでの口先介入
口先介入の警戒レベルと実行までのまとめ
過去の発言から口先介入の警戒のレベルを5段階でまとめました。
レベル |
発言内容と特徴 |
重要ワード |
1 |
「コメントしない」がコメント |
「コメントしない」 |
2 |
注視のみ。事実・理想を述べるに留まる
|
「望ましい」、「注視」 |
3 |
急速な変動を緊張感を持って懸念し始める
|
「急速な変動」、「行き過ぎ」、「緊張感」 |
4 |
投機的な動きをけん制し、適切な措置(為替介入)を仄めかす |
「投機的」、「適切な措置」 |
5 |
断固たる措置(為替介入)がいつでもできることを示す |
「断固たる措置」、「海外」 |
準備1 |
3者会合を開催 |
ー |
準備2 |
レートチェックを実施 |
ー |
実行 |
為替介入を実施 |
ー |
レベル1:「コメントしない」がコメント
レベル1発言例
- 相場についてはコメントしない
- 市場動向に一喜一憂しない
- 円安(円高)にはいい面もある
- 円安(円高)は海外要因による
為替相場について多くは語りません。
「コメントしない」、「コメントを控える」と積極的に為替相場については語りません。
いい円安(円高)、悪い円安(円高)などと言っている段階です。
聞かれたから答えただけ、という感じです。
レベル2:注視のみ。事実・理想を述べるに留まる
レベル2発言例
- 為替相場は安定的に推移するのが望ましい
- 為替相場はファンダメンタルズを反映するのが望ましい
- 市場の動向を注視していく
- 円安(円高)は一方向に偏っている
- 悪い円安にならないように注視する
語るのはまずは為替相場を「注視している」こと。
気にはしているよ、というメッセージを伝えます。
「円安(円高)は一方向に偏っている」といった現在の状況のみ。
ファンダメンタルズについては、「為替相場はファンダメンタルズを反映するのが望ましい」という理想を語るのみです。
だからどうするというわけではありません。
レベル3:急速な変動を緊張感を持って懸念し始める
レベル3発言例
- 急速な変動は望ましくない
- 緊張感(警戒感)を持って市場を注視する
- 為替相場の動きは明らかに行き過ぎている
- ファンダメンタルズを反映してない(乖離している)
- ファンダメンタルズで説明できない
- 行き過ぎた変動は好ましくない
レベル3になると、緊張感がでてきます。
「行き過ぎ」、「急速」といった急速な為替変動に懸念を示し出します。
「望ましくない」、「反映していない」、「好ましくない」と否定的な語尾が多いですね。
またファンダメンタルズについても、「ファンダメンタルズに沿っていない」と、否定的な言葉で非難します。
レベル4:投機的な動きをけん制し、適切な措置(為替介入)を仄めかす
レベル4発言例
- 投機的な動きは容認できない
- 必要であれば適切な措置(対応)を講じる
- しかるべき措置を取る
レベル4では、為替介入を仄めかします。
為替介入のことを「適切な措置」といった表現をします。
急速な為替変動を「投機的」なものとして非難します。
ここまでくると投資家としても為替介入を意識せざる負えません。
レベル5:断固たる措置(為替介入)がいつでもできることを示す
レベル5発言例
- 投機的な相場の動きには断固たる措置をとる
- 行き過ぎた動きにはあらゆる措置を排除しない
- 緊張感を持って監視しあらゆる手段(オプション)を排除しない
- 海外当局とも緊密に連絡を取っている
- (為替介入を)スタンバイしている
レベル5では、更に強く為替介入を意識させてきます。
為替介入のことを「断固たる措置」と強い表現をします。
レベル4と同じ為替介入ですが、言い方を変えてくるのが面白いですね。
海外をにおわせることで、為替介入の理解が得られていることも仄めかします。
ここまでくるといつ為替介入があってもおかしくありません。
準備1:3者会合を開催
3者会合(国際金融資本市場に係る情報交換会合)とは、「財務省」、「金融庁」、「日本銀行」の幹部で開催され、市場の動向などについて意見交換されます。
3者会合の後に必ず為替介入があるわけではありませんが、市場への強いけん制になります。
2022年3月10日と6月10日に3者会合が開催されましたが、その後レートチェックや為替介入はありませんでした。
準備2:レートチェック
レートチェックとは、日銀が金融機関に為替相場の水準を尋ねることです。
一般的に為替の実弾介入の直前の段階で行われます。
レートチェックがあったからといって、必ず為替介入が行われるわけではありません。
3者会合からレートチェックまで
2022年9月8日(木) 3者会合
2022年9月14日(水) 日銀がレートチェックを実施(午後13時30分ごろ)
2022年9月22日(木) 円買い・ドル売りの為替介入
24年ぶり為替介入に至るまでの口先介入まとめ
2022年9月22日の金融政策決定会合後、24年ぶりの円買い為替介入がおこなわれました。
そこに至るまでの口先介入をまとめました。ドル円レートは、その日の高値です。
レベルは私の独断で決めております。
日付 |
ドル円 |
コメント |
レベル |
3月10日 |
116.20 |
3者会合 |
準備1 |
3月29日 |
124.30 |
鈴木財務相「為替相場についてのコメントは控える」 「いずれにしても、いわゆる悪い円安にならないようにしっかりとした注視」 |
1-2 |
4月12日 |
125.75 |
鈴木財務相「特に急激に変動することは望ましくない」、「最近の円安の進行を含め、為替市場の動向や日本経済への影響を緊張感を持って注視する」 |
3 |
4月15日 |
126.68 |
鈴木財務相「原材料を価格に十分転嫁できないとか、あるいは買う方も賃金がそれの伸びを大きく上回るような、補うようなところに伸びていない環境。そういうことについては悪い円安といえるのではないか」 |
1 |
4月18日 |
126.99 |
黒田総裁「最近の円安はかなり急速」 |
3 |
4月19日 |
128.94 |
鈴木財務相「いろいろ影響もあるのでコメントは控えたい」 「為替市場の動向や経済に対する影響を緊張感を持って注視している」 |
3 |
6月10日 |
134.48 |
3者会合 |
準備1 |
3者会合後の声明文「最近の為替市場では急速な円安進行が見られ憂慮している」、「必要な場合には適切な対応を取る」、「為替相場はファンダメンタルズに沿って安定的に推移することが重要であり急速な変動は望ましくない」 |
4 |
7月15日 |
139.12 |
鈴木財務相「投機的な動きも背景に急速な円安の進行が見られ憂慮している」「必要な場合は適切な対応を取りたい」 |
4 |
9月6日 |
143.05 |
鈴木財務相「ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)に沿って安定的に推移することが重要」 「急速な変動は望ましくない」、「最近の為替相場は、その変動が大きくなっているという気がする」 |
3 |
9月7日 |
144.99 |
鈴木俊一財務相「円安に一方的に振れていることを憂慮している」 |
3 |
9月8日 |
144.56 |
3者会合 |
準備1 |
神田財務官「明らかに過度な変動だ」(2日で5円下落)、 「ファンダメンタルズだけでは正当化できない」、 「動きが継続すれば、あらゆる措置を排除せず、為替市場において必要な対応を取る準備がある」 |
5 |
9月9日 |
144.11 |
鈴木財務相「ファンダメンタルズに沿った安定的な推移からかけ離れている」 |
3 |
9月14日 |
144.96 |
神田財務官「緊張感を持って監視し、あらゆるオプションを排除しない」 |
5 |
鈴木財務相「あらゆる手段を排除せずに対応していかなければいけない」 手段に為替介入を含むかどうか→「あらゆる手段であり、そう考えていい」 |
5 |
日銀がレートチェックを実施(午後13時30分ごろ) |
準備2 |
9月16日 |
143.69 |
鈴木財務相「投機的な動きを背景に急速で一方的な動きが見られ、過度な変動を憂慮している。継続する場合にはあらゆる措置を排除することなく、為替市場で必要な措置をとる」 |
5 |
9月22日 |
145.90 |
13:30 神田財務官「(為替介入は)まだしていないが、いつでもできる。スタンバイの状態だ」 |
5 |
円買い・ドル売りの為替介入 |
実行 |
9月22日 |
145.90 |
17:14 神田財務官「投機的な動きも背景に急速で一方的な動きがみられております。政府としてこうした過度の変動を憂慮しており、先ほど『断固たる措置』に踏み切った」 |
5 |
徐々にレベルが上がっているのが面白いですね。
9月8日の3者会合の後から本気度を感じます。
為替介入とドル円チャート
為替介入を実施するに至る過度なボラティリティとは
さて、2022年9月22日の為替介入は、過度なボラティリティを抑制するためのものです。(Bloombergより)
鈴木氏は為替市場の動向を高い緊張感を持って注視しているとし、「どこかの水準を超えたというのではなくて、ボラティリティーに注目している」とも語った。
どうやら為替介入は水準ではなく過度なボラティリティを抑制するために行うらしいです。
ではどれくらい相場が動いたら為替介入が行われるのでしょうか?
テクニカル分析から私なりに考えてみました。
ボラリティティを測る指標であるATRとHVで考える
ボラティリティで真っ先に浮かんだのが、ATR(アベレージ・トゥルー・レンジ)です。資金管理をする際に使用するのに、有名な指標の一つです。
ATRとは、Average True Rangeの略で直訳すると真の値幅のことです。
マーケットのボラティリティを測る指標です。
ATRの計算方法
下記3通りの方法で変動幅を算出し、その中で最大となる値(絶対値)をその日の値とする。期間は14日が一般的
- 当日の高値 – 当日の安値
- 当日の高値 – 前日の終値
- 当日の安値 – 前日の終値
もうひとつボラティリティで浮かんだ指標は、HV(ヒストリカルボラティリティ)です。
直訳すると、歴史的変動率という意味で、過去の値動きをベースに計算した価格変動率です。
ATRは「当日における最大の値動きを基準」として算出されますが、HVは「過去レートの終値の前日比」を元に計算します。
HVの計算式は割愛します。(正直あまり使ってないので分かりません(笑))
期間は20日が使われることが多いということで、20日でチャートに表示してみます。
下のチャートは2022年のドル円の推移です。
1段目がドル円の日足チャート。
2段目はATR(期間1日)で1日の最大の変動幅を表示しています。
その日のローソク足が陽線であれば赤、陰線であれば青にしました。
3段目はATR(期間14日)です。過去14日間の平均がATRの値です。
4段目はHV(期間20日)です。
2022年3月の口先介入
2022年3月28日、1日の値幅が3円を超え口先介入が始まりました。
(急速な円安で記者に聞かれるので当然と言えますが(;^_^A)
レベル1「コメントを控える」からレベル3「急速」といった口先介入が繰り返されます。
この日からATR(14)とHVも急速に上昇しています。
4月20日には陰線をつけ、ドル円チャートはヨコヨコから下落に向かい口先介入が収まりました。
2022年6月の口先介入
6月に入ってからドル円は再び上昇を始めます。
1日の値幅は1円以上が頻繁になり、2円に近づくこともありました。
6日連続の陽線が続いています。
7月14日にドル円は一旦天井を付けました。
7月15日に神田財務官の「投機的な動き」「必要な場合は適切な対応」といったレベル4相当の口先介入で下落に向かいます。
その後はペロシショックもあり、円高方向に動いたため口先介入は9月あたりまでなかったようです。
2022年9月の口先介入
始まりは9月6日の豪政策政策金利の発表です。この日の値幅は2.8円を超えました。
レベル3から5の強い口先介入が続きます。
9月14日には日銀がレートチェックを行い、そして22日に円買い・ドル売りの実弾介入が行われました。
まとめ
2022年9月22日の為替介入に至るまで、実に様々な口先介入と、3回の3者会合、そして1回のレートチェックがありました。
FXをしている方は、口先介入レベルを把握しておくことと、過去の為替介入までの流れを知っておくことも大事ですね。
レベル5の「断固たる措置」が頻繁に発言される頃はFXを触らないほうが得策だと思います。
順張りも為替介入待ちの逆張りも大けがのもとなので、介入警戒感のあるときはノーポジで高みの見物といきたいところです。